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エンタングルメントは量子多体系の相の理解において極めて重要である。1次元量子細線などの量子多体系の低エネルギー領域の物理は(1+1)次元共形場理論(CFT)で有効的に記述できることがあり、CFTのエンタングルメントを調べることはそのような系の物性を理解する上で有用である。
多体系のエンタングルメントを定量する指標の一つにエンタングルメントエントロピー(EE)がある。 EEはRényiエンタングルメントエントロピー(REE)と呼ばれる量の$n\to 1$極限として得られる。REEを経路積分的に計算するreplica法と呼ばれる手法がある。この手法により、周期的境界条件あるいは無限系、片側のみに境界条件のある半無限系、および両側に同じ境界条件が課されている有限系のそれぞれに対して、(1+1)次元CFTのREEの一般的な表式が導かれている。
一方で、両端に異なる境界条件が課されている空間1次元系の場合、REEには境界エントロピーと呼ばれる定数の寄与に加え、混合境界を反映する非自明な x依存の普遍補正が現れることが示唆されており、その解析的表式はごく限られた例を除いて知られていない[1]。この困難は、replica法が誘導する“sewing条件“と境界条件の切り替わる点に登場する演算子(boundary changing operator)が共存することに起因する。
そこで、本研究では、任意の部分領域長での計算からx=L/2の場合に限定する代わりに、より一般のCFTに対してREEの境界条件からの寄与を求めることを目指す。部分領域長がx=L/2の場合は、"folding trick“と呼ばれる手法を用いて、sewing条件をある種の境界条件に書き換えることができる。この場合、計算すべきreplica分配関数は4辺上に異なる境界条件が課された矩形領域上の多成分CFTの分配関数となるが、これは2つの境界状態の間の開弦チャネル振幅として解釈でき、弦理論の文脈で調べられてきた量に帰着できる[2]。
本研究の主題は、弦理論のD-braneの文脈で発展してきた手法を用いて、rational CFTと呼ばれるクラスのCFTに対し、異なる境界条件が課された場合のREEの境界からの寄与を計算し、modularデータによって与える表式を得ることである。
本発表は、発表者の指導教官である押川正毅教授との進行中の共同研究に基づくものである。
[1] B. Estienne, Y. Ikhlef & A. Rotaru. Rényi entropies for one-dimensional quantum systems with mixed boundary conditions. SciPost Phys. 19, 119 (2025)
[2] R. Bondesan, J. Dubail, J.L. Jacobsen & H. Saleur. Conformal boundary state for the rectangular geometry. Nuclear Physics B. 862, 2, 553-575 (2012)