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機械学習は,重力波解析の様々な場面で使われているが,その一つに,パラメータ推定というものがある.パラメータ推定とは,その名の通り,重力波イベントで合体した天体の質量やスピン,重力波源までの距離,傾斜角などを推定することである.パラメータ推定の標準的な技法には,マッチドフィルターを用いたLALInference[1]や,Bilby[2]などのベイズ推定を用いたものがあるが,こうした推定,特に高精度なものには,たくさんの計算資源と,数時間~数日といった膨大な時間がかかる.
しかし,NSBHやBNSによる重力波の検出から,電磁波の放出を探すためには,1分以内のような速い解析が求められる.また,従来の技法によるパラメータ推定は,スーパーコンピュータや,研究室で買うような高額なコンピュータへのアクセスが限られている人びとにとっては,参入の障壁になってきた.
機械学習(条件付き変分オートエンコーダー:CVAE)とベイズ推定を用いたパラメータ推定ソフト「VItamin」は,訓練には数時間かかるものの,訓練を終えれば,数十秒でBBH合体による重力波のパラメータ推定を行うことができる.
この発表では,GitHubレポジトリで公開されたVItaminのモデルを一部改造し,参考文献[3]でも行われた,シミュレーション波形の解析テストの他,実際の波形(GW170809,GW190412,GW190512,GW200202)について解析テストを行った結果を報告する.実際の波形の解析結果は,データの概形は捉えていたものの,距離が近めにでたり,傾斜角が一定の値で貼り付く現象が見られた.また,遠くで発生したイベントでは,質量が大きめに出る現象が見られた.前者については,事前分布に強く引きずられる挙動や,学習が十分に進まなかった可能性が示唆され,後者については,検出器質量を推定しているために,宇宙論的赤方偏移zによる影響が見られていると考えられた.その他,VItaminのノイズの扱い(設計感度を元にした定常ガウスノイズで訓練)も影響を与えていると考えられる.
今回の解析では,家庭用のデスクトップパソコンで行った.テストデータの作成には10時間,訓練データの作成や訓練には数時間-1日,各々の解析には数十秒程度かかった.今回の結果は,家庭で買えるPCでも重力波の解析ができるといった,「インクルーシブ」な物理学への第一歩と言えるだろう.
- 参考文献[1]: https://lscsoft.docs.ligo.org/lalsuite/lalinference/index.html 2026年2月20日閲覧
- 参考文献[2]: https://bilby-dev.github.io/bilby/ 2026年2月21日閲覧
- 参考文献[3]: "Bayesian parameter estimation using conditional variational autoencoders for gravitational-wave astronomy"(Hunter Gabbard, Chris Messenger, Ik Siong Heng, Francesco Tonolini & Roderick Murray-Smith ,2021 https://www.nature.com/articles/s41567-021-01425-7)